読書感想文④Kazuo Ishiguro『日の名残り ノーベル賞記念版』
(※ネタバレほぼありません)
初めての感覚。
「つまらない」のに、本の世界から戻ってこれない。本当の異世界に来てしまったよう。
結構前に読み終わってました。初めてカズオイシグロの本を読みました。
舞台は戦間期イギリス。主人公は執事の男、スティーブンス。ダーリントンホールという館の執事を何十年も務めている老齢の男。長年仕えた主人は何年か前に亡くなり、現在はアメリカ人の主人に仕えています。
物語は、彼の語りで進んでいきます。現在に多くの回想を交えながら。
彼は1週間の休みをもらって自動車で旅行に出ます。そうして、昔ダーリントンホールで女中頭をしていたミス・ケントンに会いに行きます。もう20年ぶりぐらいに。
私はこの読書感想文を書くにあたって他の方の書評だとか考察だとかを、何も読んでいません。
的外れだとしても、自分の中からのみ湧いてきた感想を書きたいと思ったので。
正直、最初はすごくつまらない本だなと思ったんです。私は近世〜近代のヨーロッパが大好物なので時代設定はぎりぎりストライクゾーンでした。でも、なんせ物語がなかなか進まない。スティーブンス、過去に引きずられ過ぎでしょ……という感じ。
でも、なぜか読むのをやめると、早く本の世界に戻りたいと思ってしまうんです。読んでいる最中も、つまらないとすぐ集中力って切れてしまいますが、そんなこともない。
私は普段から本の世界に浸りやすい方だと思います。その本の文体でひとりごちたりしてしまいます。
しかしこの物語は、私の心の中だけでなく、私の周りを丸ごと包むように、私を異世界に連れて行ってしまいました。
読了してから数日間、その不思議な感覚は続きました。
私の語彙力が乏し過ぎて、この感覚をうまく表現できないことが本当にもどかしい…。
うーん。ノーベル賞ってすごい(思考の停止)。
この不思議さ、今は考えても理由がわからない気がします。
もっとたくさん本を読み、考え、書く……そうしたらいつかわかるのかな。
この物語は映画にもなっているんですが、多分映像より文章の方がいい気がします。
映画だと「これはラブストーリーです」って感じになってしまうのではないでしょうか。予測ですが。
この物語は、ラブストーリーだったとわかったところ、峠を越えたところすぐで終わっています。
そこまではずっと、これは愛の物語なのか? そうじゃないのか? と思わせながら進む感じ。いや、私の読解力がないだけかもですが。
文面に現れない、深層心理に働きかけるような、第5感に働きかけるような、そんな文章だから異世界に連れて行かれたのかな。
私は昔吹奏楽部で「通奏低音」というものを習いました。文字通り、ずっと鳴ってる低音です。ほぼ気づかれない、でもものすごく大事な音。それがないと180度その音楽が変わってしまうような、世界が崩れるような音。
この本には、そんな通奏低音みたいなものがあるのではないでしょうか。
なんともまとまらない読書感想文になってしまいましたが、これを書いているだけでも異世界感を少し思い出しました。
解説の村上春樹によると、カズオイシグロは同じ型の物語を書かないそうですね。
違う型の本も読んでみたら、原因が絞られてきますよね。読んでみよう。
それでは。